
学生フォーミュラ 2024日本大会は、愛知スカイエキスポ という新天地で開催された。
どのチームも事前練習なくぶっつけ本番で乗り込んできたが、果たしてどのような状況になったか?
動的審査初日から振り返ってみた。

学生フォーミュラ が直面した新たな気候、新たな路面
ご存じセントレア(中部国際空港)と同じ島内にある愛知スカイエキスポは、周囲を海で囲まれている。
そのため9月の期間中は気温だけでなく湿度も高く、学生の中には体調を崩した者もいるほど。
天気予報が示した最高気温は約32℃で、路面温度は約50℃。
事前情報では舗装は良いものの段差など激しいギャップが多く、サスペンションを壊すチームもあるのでは?と伝えられていた。
また有識者の中には、エンジンマッピングの再調整が必要では?という声も聞かれた。
そこで数チームに話を聞いてみたが、まずサスペンションはダメージを受けたという声はあったものの1チームのみ。
エンジンマッピングについても再調整したような話はなく、基本的に事前調整した仕様で臨んだようだ。


東と西で別れた反応
走行後のインプレッションだが、数チームに話を聞いたところ関東のチームからは”路面が滑りやすい”、関西のチームからは”テストで走った泉大津フェニックスとそんなに変わらない”という、興味深いコメントが得られた。
ちなみに泉大津フェニックスとは大阪泉大津市にある多目的広場で、主に関西のチームがそこを貸し切り、定期的に合同のテスト走行会を開いている。
そこも海に囲まれた埋立地であり、気温や湿度、海風による影響など愛知スカイエキスポと似た環境と言える。
そうした普段の環境と経験の違いが、コメントに表れたのかもしれない。
結果を見るかぎり、大きなアドバンテージにはならなかったようだが、もし今後、関西勢が上位を含めるようになったなら、テスト走行を行う場所も考慮する必要が出てくるかもしれない。


ビッグチェンジかスモールチェンジか?
2024年大会はどのチームも走行データがないため、動的審査では前年のスモールチェンジ仕様が有利では?と考えていたが、蓋を開けてみると、カーボンモノコックというビッグチェンジを果たした京都工芸繊維大学の1位に対し、以降は昨年型の正常進化というチームが並ぶ結果となった。
一見、京都工芸繊維大学が追い立てられているように見えるが、それでも1位を取ったあたり、チームの底力が垣間見える。
スペースフレームからカーボンモノコックへの移行は、足回りなど多くのパートで設計変更が発生するため、昨年のデータはあまり役に立たない。
そのため基準のセッティング出しをはじめ新路面への対応など、例年より多くのタスクが発生した事だろう。
確かにアドバンテージは削られたものの、歴代で受け継いできたチームの総合力で逃げ切った感があった。
反対に他チームからしたら、データのない2024年は下剋上のチャンスでもあったはず。
しかし、その貴重なデータを得られてしまった。
翌年以降、さらに強力になる事も覚悟しなければならない。
総合優勝を狙うチームは、今以上のハードワークが必要となってくるだろう。

走れるチームと走れないチームの違いは?
2024年大会も残念ながら、動的審査に参加できないチームが出てしまった。
シェイクダウンに間に合わなかったチーム、車検を通過できなかったチームと様々だが、中には事前のテスト走行で好評価を得ていたチームや、期待されるマシン諸元を提示してきたチームも含まれており、なぜこんな状況になったのか不思議に感じていた。
そうしたチームのいくつかに話を聞いてみたが、気になったのがまとめ役が不在、もしくは機能していないという点。
優れたスキルややる気にあふれるメンバーを揃えていたものの、個々がやりたいようにやってしまいマシンがまとまらずスケジュールが遅延。
シェイクダウンに間に合わない、完成はしたが細かいところに配慮が足らずにトラブルが多発、時間がなく車検対策が不十分なまま大会へ….
といった状況を生み出していた。
メンバー全員、目的と現状認識、方向性を共有出来ているのが理想的だが、少人数ならともかく大所帯では難しいところもあるだろう。
スケジュールを見ながら”今、何が必要で”、”何を行えばいいか”、”何が障害となっているか”を見極め、その都度、最善の方針を提示(いくつかを捨てる決断など)する等、メンバーをまとめられる者がいればこうはならなかったように思う。


モータースポーツで勝つか?製品力で勝つか?
EVクラスだが総合優勝を狙えるパフォーマンスを見せている名古屋大学だが、今大会に限っていえば、動的審査で一歩譲ったものの静的審査は堂々の1位。
この結果により総合2位まで登りつめている。
モータースポーツ要素の強い動的審査だが、ものづくりコンペティションを謳う学生フォーミュラでは製品力を見る静的審査も重要で、総合優勝を狙うなら当然抑えておく必要がある。
しかしチームの大半は静的審査を苦手としており、なにより確実に走るマシンを完成させようと、思い切って動的審査にリソースを割いてくるところもある。
その結果、動的審査を走ればハイスコアが期待できるが、走れなければ総合順位が大幅ダウンという状況になってしまう。
今回もそのようなチームがいくつか見られたが、気になったのが車検で躓き気味な傾向にある事。
静的審査は設計コンセプトを細部まで理解しているかがポイントとなってくるが、それが低いという事はマシンを把握しきれていないとも言える。
それなら、車検対応でも見落とす点があるのではないだろうか?

ちなみに総合9位に躍進した九州工業大学だが、こちらも静的審査の成果が総合順位の向上に寄与している。
今大会ではなんと5位にアップ。
さらに2年連続で車検を最速通過するなど、やはり静的審査対策の効果が出ているように思われる。



学生フォーミュラ 海外チームの傾向
今年、海外から参加のチーム国籍を見ると、中国が4、台湾が2、インドネシア、タイ、マレーシアがそれぞれ一つずつとなっている。
クラスの内訳を見るとICVが5、EVが4となっていたが、2024年最初の参加申請リストを見ると、中国が14(ICVが7、EVが7)、台湾が6(全てEV)、インドネシアとタイが3(ICVが2、EVが1)、バングラデシュとロシアが2(ICVが1、EVが1)、マレーシアが1(ICV)、カザフスタン、ニュージーランドがそれぞれ1(EV)で、ICVクラスが13、EVクラスが19と逆転している。
ICVクラスが多い国内勢と比べると、かなり対照的。
たまたまなのか国の取り組み、学校の教育事情を反映してのものなのか?
そういえば今年のデザイン審査だが、トップ4の三分の二を中国チームが独占。
国内勢は名古屋大学が3位に食い込んだのみで、3連覇を果たした京都工芸繊維大学、昨年2位の京都大学も今年は順位を落としていた。
昨今、世界の自動車産業は中国、韓国、台湾といったアジア諸国が勢力を強めているが、今回の結果はその勢いが反映されたように見えた。
【取材・文】
編者(ものシンク)
【取材協力】
公益社団法人 自動車技術会