
STEM RACING とは、規定に沿って自作したミニチュアF1カーで競い合う国際的な競技で、あのモータースポーツの最高峰である Formula 1 が全面支援している事でも知られている。
日本国内でも ものづくり好きな高校生を中心に盛り上がりを見せているが、そんな STEM RACING が今回、アラムコ・アジア・ジャパン(株)と共同で「Aramco Next-Gen Hub with STEM Racing Japan」ブースを出展。
広く一般に向けたPRを展開してきた。
STEM RACING の概要
STEM とは 科学(Science)、技術(Technology)、工学(Engineering)、数学(Mathematics)それぞれの頭文字を組み合わせた言葉で、主に STEM 教育という呼び名で浸透している。
これは先にあげた各分野を統合的に学ぶ教育プログラムで、その優秀性からこれまでに様々な派生が生まれてきた。
STEM RACING もその一つで、車両開発と競技を通してそれらを学ぶコンセプトとなっている。


Formula 1 が支援するだけあってその内容はかなり本格的。
実際のF1チーム運営で求められる設計や開発、広報、マーケティング、プレゼンテーション、プロジェクトマネジメントといった、まるで企業のプロジェクトような過程、要素が評価対象で、これらを学生達自身で率先して取り組んでいく事になる。
作成するドキュメント類も全て英語によるポートフィリオにしなければならず、そのクオリティも企業プレゼンに匹敵するレベルにまで高めなければ勝負ならない。

発祥はイギリスで2000年からスタート。
対象は6歳~19歳で、様々な参加クラスがある。
最新のCAD、CFDソフトウェアなどが無償で提供され、製作でも3DプリンタやCNC加工、手彫りといった方法が使われる。


日本では F1 in Schools という団体が2016年に導入を開始し、まずは2017年の世界大会へ1チームだけ送り込んでいる。
成績は残念ながら最下位近く。
世界とのレベルの違いを見せつけられて終わったが、面白い事に帰国後のメンバーの顔つき、学びに対する姿勢などが出発前と比べて大きく変化したという。
それを見た当時の事務局では、この活動は人材育成の大きな糧になる、続けていく事で”ものづくり立国日本”の隆盛を取り戻せると確信。
本格的に力を入れるべく、普及活動や日本側の環境構築に努めてきた。

世界大会への参加は2017年以降も続いていたが、その間も参加した学生達からは様々な要望、リクエストが送られ続けており、その情熱は収まる事を知らず。
そうした学生達を大事にしたい、もっとしっかりした環境で支援したいと、今年、正式な日本法人を設立する事となった。

そういえば、ハース F1 チーム の代表「小松 礼雄」氏が日本側のアンバサダーに就任しているが、そのエピソードが面白い。
小松 氏も以前から STEM RACING の活動を知っていたようで、たまたまイギリス、シルバーストンで日本側代表と会う機会があったらしい。
そこで日本でも本格的に活動を始める事を知り、ならばぜひ協力させてほしいと自らアンバサダー役を申し出たという。
F1チームの代表が進んで申し出るほどの STEM RACING という存在。
対する期待の大きさが感じとれた。

現在、福井高等学校のチームフェニックスをはじめ、ハヤブサレーシング、American School in Japanのフュージョンフォース、K International School Tokyoのチームインパクト、マーキュリーレーシング、ウインドブレーカー、ラップセブンティーン、そして山口県立山口高等学校のサクラレーシングの8校が活動を行っている。
どこも自分達でも挑戦したい、世界大会に参加したいと事務局に訴えたうえで設立されたチームばかり。
中にはクラウドファンディングで100万円以上の支援を得たところもあり、その熱意のほどが窺える。
数日前にはシンガポールで世界大会が行われており、日本チームは好結果を残している。

アラムコ・アジア・ジャパン の取り組み
STEM RACING のサポーターには名だたる企業が軒を連ねているが、その一つが総合エネルギー・化学企業であるアラムコ。
アラムコでは世の中の問題が非常に複雑化している事に憂慮しており、その解決には STEM 教育 を経た人材育成がベストと判断。
STEM RACING をはじめ、世界中で STEM による様々な活動の支援を続けている。
尚、これまで日本での公式な支援は行われていなかったが、 STEM RACING JAPAN という日本法人が正式に立ち上がった事により、アジア圏を担当するアラムコ・アジア・ジャパン(株)での支援活動が本格スタート。
まずは日本での認知度をあげるべく、そのPRの場として今回のジャパンモビリティショーが選ばれた。
これ以外にもアラムコ・アジア・ジャパン(株)では、STEM を通して様々な教育支援を行っている。
まずは派生プログラム である STEAM チャレンジ(先の STEM に Arts(芸術・教養)が加わった呼称)。
STEAM 教育を導入したい公立の中学校、高校に対して、教材の無償提供や若手の先生、経験の浅い教員の支援を行うもので、教材製作や教育支援を専門とする団体と取り組んでいる。
教員にまで踏み込んでいるのは、導入がスムーズに進むようにという考えからだろう。
また昨今のジェンダーバランスに対する配慮から、このプログラムでは特に女性教員の応援に力を入れている。
スタートは昨年からで、多くの応募の中から、これまで約5,000人を対象に支援が行われた。
もう一つがアラムコ能登テックハブ。
昨年の能登半島地震の影響で、現地の子供達は学校と家以外の行き場所が無くなっているという。
そこでアラムコではそれ以外に行き来できる場所を、最新のデジタルテクノロジーに触れながら活動できる場所を作ろうと準備が進められている。
先ごろまで実施団体の募集が行われていたが、ジャパンモビリティショーの初日に2団体が採択された。
正式オープンは来年の2月、3月付近との事。
【取材・文】
編者(ものシンク)
【取材協力】
ジャパンモビリティショー
STEM RACING JAPAN
アラムコ・アジア・ジャパン(株)