マツダ自動車整備専門学校(神戸)が開校!第1期生入学式レポ|独自カリキュラムと整備士の将来性

「このままでは、日本の車社会が崩壊してしまう」——そんな強烈な危機感から、一地方の自動車ディーラーが立ち上がり、ゼロから専門学校を創り上げたという。

2026年4月9日、歴史ある港町・神戸の地で、ひとつの真新しい学校が産声を上げた。「マツダ自動車整備専門学校 神戸(愛称:マステック神戸)」だ。私たち「ものシンク」取材班は、日本の「ものづくり」と「インフラ」を根底から支える、次世代のエッセンシャルワーカーたちの記念すべき第一歩を取材した。

マツダ自動車整備専門学校(神戸)の入学式。真新しいスーツ姿の第一期生(開拓者)たちを拍手で迎えている。

64年の時を超えたホールに集った、多様な「開拓者」たち

入学式の会場となったのは、神戸マツダの創業者である橋本信夫氏が「優秀な人財を迎えるには、それなりの器が必要だ」との思いで64年前に建てたという歴史あるホール。その重厚な扉を開け、真新しいスーツに身を包んだ第1期生21名が入場してきた。

彼らの顔ぶれを示すデータが、非常に興味深い。 高校を卒業したばかりのフレッシュな若者たちの中に、一度社会に出た後に「学び直し」として入学した社会人が4名。男性18名に対して、女性も3名含まれている。さらに、兵庫県内だけでなく県外からも5名の若者がこの神戸の地へ集まっていた。

マツダ自動車整備専門学校(神戸)の実習場で、マツダの魂であるロータリーエンジンの横で力強いガッツポーズを決める、真新しいスーツ姿の第一期生(開拓者)たち

そして何より驚くべきは、21名中10名が、すでにマツダ販売会社の「社員学生」として給与を得ながら学ぶ者や、奨学金の貸与を受ける者だということだ。ここにいるのは、単に「車が好き」な若者の集まりではない。自動車業界からの「本気の人材投資」を受け、自らの意志で未来の最前線へ飛び込んできた、多様で熱意ある開拓者たちなのだ。

クルマ好きの血が騒ぐ!「伝説のエンジニア」が仕掛けるワクワクする学び

マツダ自動車整備専門学校(神戸)の 山本修弘 校長 のスピーチ。

「今日という日は、皆さんの新しいエンジンがスタートする日です」

新入生たちに向けてそう温かく語りかけたのは、本校の校長に就任した山本修弘氏だ。マツダのロータリーエンジン開発や、世界中から愛される名車「ロードスター」の開発主査を歴任してきた、まさにマツダスピリットを体現する「伝説のエンジニア」である。

自動車整備の学校といえば、油まみれになりながら厳しい職人の世界で技術を叩き込まれる……そんな古いイメージを持つ人もいるかもしれない。しかし、山本校長が仕掛ける教育カリキュラムは、現代の若者の「ワクワク」を最優先にデザインされている。

「座学ばかりではモチベーションは続きません。まずは実車に触れ、ロードスターに乗る。車って楽しい!という原体験からスタートさせたいんです」

さらに、カリキュラムにはマツダが誇る「モータースポーツ」への参加や、サーキットでの走行体験なども組み込まれているという。単に部品の構造を暗記するのではなく、モータースポーツの熱狂の中に身を置き、「走る歓び」を肌で知る。クルマ好きの若者にとって、これほど血が騒ぐ環境はないだろう。

若者の「車離れ」を吹き飛ばす、新入生たちの熱きロマン

「若者の車離れ」が叫ばれて久しい昨今だが、現場で出会った第1期生たちの生の声を聞くと、そんな言葉は吹き飛んでしまう。

ある男子学生は、目を輝かせながらこう語ってくれた。 「マツダの車で勉強できるのが本当に嬉しいです。いつか、ユーノスコスモや3ローターエンジンを触ってみたいですね」

また、別の男子学生の目標はさらにディープだ。 「学校ではエンジンの分解や組み立てを徹底的にやりたいです。将来の夢は、初代コスモスポーツに乗って、それを自分自身の腕で整備し続けることなんです」

一方で、日常に寄り添う「愛車」への温かい思いを語ってくれた女子学生もいる。進路変更を経て入学したという彼女は、少しの不安と大きな期待を滲ませながらこう教えてくれた。 「自分の愛車であるアテンザセダンのエンジンを、自分で直せるようになりたいんです。そうやって、10年くらい長く乗り続けられたらいいなと思って」

何十年も前の名車にロマンを抱き、その技術を受け継ごうとする者。そして、自分の生活を彩る愛車を自らの手で長く大切に守り抜こうとする者。

ベクトルは違えど、彼らが見せるクルマへの深い愛情と探求心は、かつての日本の「ものづくり」を牽引してきた大人たちの胸を熱くさせる。彼らの「好き」という純粋な初期衝動は、このマステック神戸という最高の土壌で、これからどのようなプロフェッショナルへと成長していくのだろうか。

親御さんも安心の教育環境。「車を直す」だけでなく「人を育てる」マツダの伴走型マインドセット

マツダ自動車整備専門学校(神戸)の 橋本 覚 理事長のスピーチ。

愛する我が子を、設立されたばかりの「第1期生」として送り出す。期待はもちろんのこと、保護者の皆様の胸の内には少なからず不安もあったことだろう。しかし、式典での学校トップ陣の言葉を聞いて、その不安は確かな「安心」と「信頼」へと変わったはずだ。

マステック神戸の運営母体である学校法人5HAPPYの理事長・橋本覚氏は、保護者席に向かって力強く、そして深く頭を下げてこう誓った。 「大事なご子息、ご息女を責任を持ってお預かりし、立派な社会人にいたします」

単に自動車の整備技術を教え込むだけの「訓練所」にするつもりは毛頭ないという覚悟。それは、新入生へ向けた橋本理事長の次のようなメッセージにも色濃く表れていた。

「働くということは、人の役に立つ、社会の役に立つということです。皆さんが今までご家族から注いでもらった『愛』を、今度は社会にお返しする。この学校での日々を、そのための準備の2年間としてほしいと思います」

重苦しい精神論ではなく、「愛のお返し」というなんとも温かくエモーショナルな表現。車という物理的な機械に向き合う前に、まずは人としてどう生きるかという「マインドセット」を何よりも大切にする姿勢が伺える。

失敗を恐れず「共に正解を創る」。教職員の熱き決意

マツダ自動車整備専門学校(神戸)の 教職員の代表スピーチ。

このような「人間教育」の理念は、実際に現場で学生と向き合う教職員たちにも深く浸透している。教職員を代表して歓迎の辞を述べた鳥羽先生の言葉は、業界外から取材に訪れた我々メディアの胸にも強く響くものだった。

「まだ誰も触れていない新しさの中で、失敗を恐れる必要はありません。正解を教えるのではなく、私たち教職員も一緒に悩み、共に学び、自分たち自身が『正解』になれるよう全力で走り抜けます」

現代の若者にとって、上から一方的に正解を押し付けられる環境は息苦しい。特に、自動車業界自体が100年に1度の大変革期を迎えている今、「過去の正解」がこれからも通用するとは限らないのだ。だからこそ、未知の未来に向かって「共に正解を探し、創り上げる」というフラットな伴走型のスタイルは、これからの教育の理想形と言えるだろう。

鳥羽先生は、自動車整備士という仕事を「自身の幸せ、家族の幸せ、お客様の幸せ、仲間の幸せ、地域社会の幸せという『5つのハッピー』を生み出す、最高に誇り高い職業」と表現した。

「モノづくりは、人づくりから」。そんな言葉が古くからあるように、良い技術は、豊かな人間性の上にしか宿らない。マステック神戸という新しい学校は、技術者である前に「一人の自立した人間」を育てるという、極めて誠実で温かい土壌を持っていることが証明された式典であった。

社会のライフラインを守る。次世代の「エッセンシャルワーカー」としての誇りと将来性

自動車業界は今、100年に1度の大変革期にある。AIの進化やEV(電気自動車)、自動運転技術の台頭が進む中、「自動車整備士という職業の将来性はどうなのか?」と疑問に思う若者や保護者の方もいるかもしれない。

しかし、その答えは明確だ。整備士の価値は下がるどころか、これからさらに重要性を増していく。

式典に来賓として登壇した国土交通省の多田課長は、これからの自動車整備士を「国の宝」と表現した。また、久元神戸市長は、市民の足である路線バスや物流を支えるトラックなど、街のインフラそのものが彼らの技術によって守られていることを強調した。さらに、マツダ株式会社の毛籠社長からも「当たり前の日常を支える」という力強いメッセージが寄せられている。

マツダ自動車整備専門学校(神戸)の入学式で披露された、全国のマツダ販売会社からの祝電リスト

車がどれほどデジタル化し、高度なAIを搭載しようとも、物理的にタイヤがすり減り、サスペンションが動き、人々を乗せて走るという「現実の物理法則」から逃れることはできない。高度なIT知識と、物理的なハードウェアを修理する確かな腕。その両方を併せ持つ次世代の自動車整備士は、AIには決して代替できない最強の「エッセンシャルワーカー(社会に必要不可欠な職業)」となるのだ。

メーカーの垣根を越えたエール。スクリーンを埋め尽くした圧倒的な「祝電」

彼らがどれほど社会から求められ、期待されているか。それが最も視覚的に、そして圧倒的なスケールで現れていたのが、式典の終盤に行われた来賓紹介と祝電披露のシーンである。

スクリーンに映し出された祝電のリストを見て、我々取材班は思わず息を呑んだ。

北海道から九州まで全国を網羅するマツダの販売会社はもちろんのこと、驚いたのはトヨタ、日産、ホンダ、三菱、スズキ、ダイハツといった「メーカーの垣根を完全に越えた」販売会社群がずらりと名を連ねていたことだ。さらに、JAF(日本自動車連盟)やオートバックス、数々のメガバンクや各県を代表する地方銀行、大手保険会社、タイヤメーカー、地元神戸のバス会社に至るまで、ありとあらゆる企業からの祝電がスクリーンを埋め尽くしたのである。

マツダ以外の競合メーカー(トヨタ、日産、ホンダ、三菱、オートバックス等)からも多数寄せられた祝電リスト

これは単なる「お付き合い」の祝電などではない。深刻な整備士不足という共通課題を抱える日本の産業界全体が、メーカーの枠や競合という立場を越えて手を取り合い、「日本の車社会を、そしてインフラを根底で支える新しい仲間たちよ、どうか頼むぞ」と送った、熱狂的なエールそのものであった。

彼らがこれから飛び込むのは、単なる街の修理工場などではない。金融、保険、物流、インフラといった、日本のあらゆる産業と強固に結びついた「巨大なものづくりネットワーク」のど真ん中なのだ。

Let’s make history together ――共に歴史を創る21名の開拓者たち

マツダ自動車整備専門学校(神戸)の 新入生代表スピーチ。

「私たちは、第1期生としての誇りと覚悟を持ち、自らの手で未来を切り拓いていきます」

式典の締めくくり、新入生を代表して登壇した渡邊さんは、緊張した面持ちの中にも、はっきりとした力強い声でそう宣誓した。彼らには手本となる先輩はおらず、学校の伝統もまだ存在しない。しかし、だからこそ彼らは、敷かれたレールの上を歩くのではなく、自分たち自身が「マステック神戸の歴史の1ページ目」となることができるのだ。

「このままでは車社会が崩壊する」という大人の危機感から始まり、無数の困難を乗り越えて開校にこぎつけたこの学校には、ゼロからイチを生み出す「開拓」のDNAが息づいている。今日、真新しいスーツ姿でここに集った21名もまた、そのDNAを受け継ぐ立派な「開拓者」である。

式典の序盤、伝説のエンジニアである山本校長が若者たちに贈った言葉を、最後にもう一度紹介したい。

「Let’s make history together(共に歴史を創ろう)」

今日、彼らの新しいエンジンは力強く始動した。クルマへの純粋な愛と、社会インフラを背負う誇りを胸に、彼らがどのような歴史を創り上げていくのか。私たちは、これからもこの若き開拓者たちの挑戦を、ワクワクしながら見守り続けたい。


【取材・文・撮影】
ものシンク編集部
現役ITエンジニアの視点から、日本の「ものづくり」と「インフラ」の最前線を独自の切り口で紐解くWebメディア。

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