
北海道大学 より学生フォーミュラに参戦する フォーミュラSAE北海道チーム。
今年はファイナル6(エンデュランス競技で優勝争いの権利を持つ6チームの事。オートクロス競技の成績に基づいて選抜される)入りを掲げ、マシン、チームとも大幅に強化してきている。
今回、そんなチームの大会直前を見てみたくなり、北海道へ行ってみる事にした。
【学生フォーミュラとは?】
学生達の手によるオリジナルレーシングカーが競う国際大会で、マシンはゼロから設計、開発を行っている。
ガソリンエンジンのICVクラス、電気モーターのEVクラスがあり、書類やプレゼン審査、走行審査といった各項目で高得点を争い、その合計で総合優勝が決まる。
社会に通じる人材、ものづくり技術者の育成を目的に始められたが、モータースポーツ要素も強い事から車好き、自動車レース好きな若者からも高い支持を受けている。




【フォーミュラSAE北海道チーム – 北海道大学 】
学生フォーミュラへは、2007年の第5回大会より参戦を開始。
遠隔地である事、道内で実質参加出来ているのが同チームのみな事、本州勢のように他チームとの交流、情報交換がしにくく、合同試走会への参加が困難な事、大会会場に近い環境でのテストが困難な事、厳しい予算(特に交通費など)の中で活動している事、といった条件下で奮闘を続けている。

過去の最高順位は11位。
一時は低迷したものの、2024年大会では17位まで盛り返すなど、今や本州勢を喰う勢いを見せている。

メンバーは男女合わせて32名。
場所は北海道大学工学部の構内で、R309にある部室とマシン製作やメンテナンスを行うガレージ、カウルなどのパーツ製作を行う居室の3か所で活動を行っている。


訪問した時は翌日にテスト走行を控えており、メンバーの多くはガレージに詰めていた。
マシンの搬出準備を行っているかと思いきや、もちろん準備はやっているものの、奥ではマシンの組み立てやさらなるパーツの加工、調整も平行して行われていた。
私は少しして引き上げたが、後から聞いた話だと、この日も日付を超えてなお続けたそうだ。

【テスト走行(試走会)– 北海道大学 】
その場所は、驚くことに(株)いすゞ北海道試験場の敷地内。
試験場と言えば様々な車両のテストを行う場所であり、言わば企業秘密の宝庫。
ある自動車メーカー所有のテストコースでは、テスト以外の利用を頑なに拒むところもあったという。

しかし、いすゞ北海道試験場は早くから門戸を開いており、これまでにも警察車両のトレーニングや安全運転講習会、小学生向け交通安全教室、そして地元の駅伝大会会場としても活用されている。
今回の学生フォーミュラも、”ものづくりに取り組む北海道の学生を応援したい”、という思いから支援を快諾。
担当の方は”自分も学生フォーミュラが好きなので”と、場の提供だけに留まらず、率先して現場サポートを買って出ていた。
明け方近くまで準備が進められた今期のマシン。
ショートホイールベース化とエアロパーツ、エアシフターのアップグレードにエボサス、そして新たに可変吸気システムも搭載するなど、着実な進化が垣間見える。
重量も軽量化が進んでおり、真空引き製法でのカーボンパーツの導入などにより、精度も向上させてきた。
今後は最終調整と、本番用のカラーリングが施されてから大会へ送り出される。




テストメニューは主にフロントウィングを搭載してのチェック走行と、可変吸気システムのデータ取り。
今回はアクセラレーションとスキッドパッド、オートクロスを模したコースが設置された。



早期にシェイクダウンを行ったおかげか、序盤からなかなかの速さを見せるマシン。
マイナートラブルは出たものの走行を取りやめるほどではなく、テストメニューは順調に消化できたようだ。
ちなみに参考タイムだが、アクセラレーションは約4.2秒、スキッドパッドは約4.96秒を記録(※オートクロス、エンデュランスは正式なレイアウトで実施していないため、記載しない)
これらは、中古タイヤの中でも状態の悪いものを使って叩き出しており、昨年大会と比較するとアクセラレーションは総合7位、スキッドパッドは総合2位のタイムとなる。
これが新品タイヤだったらと思うと、ワクワクせずにはいられない。

【北海道大学 – Member’s Voice 1】
氏名:山岸 凌大
学年、学部:工学部 情報エレクトロニクス学科 3年
担当セクション:エアロパーツ(フロントウイング、リアウイング設計担当)
Q. 今の心境をお願いします。
A. 私はドライバーも担当するのですが、まだ今のマシンに慣れていません。今日のテスト走行でさらに詰めていきたいです。
Q. ここまでの作業進捗についての感想をお願いします。
A. 去年に続き、今年もフロント側でマウント部の破損はあったものの、それ以外では想定通りに進んでいます。
今回、破損対策も行ってきたので、今日はその確認もできればと考えています。
Q. 自慢のポイント、苦労した点などあれば教えて下さい。
A. 去年のGFRPから、今年はカーボンでウイングを製作しています。
積層の面で苦労しましたが、良い仕上がりになったと思っています。ぜひ多くの方に見て頂きたいです。
Q. ライバルチーム、または気になるチームがあれば、その理由も添えて教えて下さい。
A. 九州工業大学さんです。ウチは北海道、あちらは九州と、同じ本州外から参戦するチームという事で親近感があります。
なにより我々よりも格上な存在なので、まずは胸を借りる気持ちで挑戦したいと、モチベーションをあげているところです。
Q. 最後に大会への意気込みをお願いします
A. 今年はエンデュランスのドライバーを担当する予定です。最後までマシンをしっかり走らせ、無事ゴールさせられるよう頑張ります!

【北海道大学 – Member’s Voice 2】
氏名:大月 高寛
学年、学部:工学部 情報エレクトロニクス学科 3年
担当セクション:パワートレイン(リーダー)
Q. 今の心境をお願いします。
A. 自分の関わる最後の年なので、失敗なくマシンが完走できたらいいですね。
期待半分不安半分といったところです。
Q. 自慢のポイント、苦労した点などあれば教えて下さい。
A. 可変吸気システムですね。今年のプロジェクトではかなり力を入れて開発を行ったので、大会に来られる方にはぜひ見て頂きたいです。
Q. ライバルチーム、または気になるチームがあれば、その理由も添えて教えて下さい。
A. 鳥取大学チームです。私は山陰地方の出身でして、同郷のチームが大会に出る事をとても嬉しく思っています。
会場では、チームの方とぜひお会いしたいですね。
※ちなみにこの記事を書いている私、編者も広島県の人間です。同じ中国地方のチームまたは出身の学生さんは、個人的にエールを送りたいと思います(笑)
Q. 最後に大会への意気込みをお願いします
A. 今年のチーム目標である総合一桁台の順位になれるよう、せいいっぱい頑張ります!


チーム作りでも、強化な基盤が出来つつあるようだ。
見ていると、一人一人が積極的に関わっている光景が印象的だった。
その中心は3年生と2年生で、4年生はどちらかと言えばサポートに徹している。
「学生フォーミュラをやるために参加した」、「ラジコンで取り組んだセッティングの考えを試してみたい」等という意気込みで加入した1年生の姿もちらほら見られた。


コロナ過以降、いくつかのチームでは数年先を見越した計画を立てているが、同チームでも長期的視野の元、次年度以降を踏まえた人材育成やマシン開発を行っているという。
マシンの速さ、チームの雰囲気を見るに、その効果は確実に表れているようだ。

【北海道大学 – Project Reader Voice】
氏名:大橋 巧宗
学年、学部:工学部機械知能工学科 3年
担当セクション:プロジェクトリーダー、フレーム
Q. 今年のチームを一言で言うと、どんなチームか教えて下さい。
A. ”成長”です。昨年までの課題を元に、今日までメンバー一丸となって取り組んできました。マシンも様々な点でブラッシュアップできたと思っています。
Q. 今年度は、どのような方針で活動されましたか?
A. 目標に向けて、まずは一つ一つの作業を確実にこなす事を考えました。
そういえば車検順の発表があったのですが、ウチはかなり後のほうでちょっと厳しいなと感じているところです。
でもこれまでやってきたように大会でも、一つ一つを確実にこなしながらクリアしていきたいですね。
Q. リーダーから見て、今年のマシンを見た率直な感想をお願いします。
A. 思っていたより戦えるマシンになったと感じています。不安もありますが、それ以上に本番がとても楽しみです。
Q. ライバルチーム、気になるチームがあれば、出来ればその理由も添えて教えて下さい。
A. 特には意識しないようにしています。一番は、前年に対して今年はどこまでステップアップできたかであり、それが良い記録として残れば満足です。
Q. 大会に挑むにあたっての意気込みをお願いします。
A. メンバーの奮闘のおかげで、ここまで上手くプロジェクトが進められました。本番もこの調子で、最後までプロジェクトが完遂できるよう頑張ります!
今期予定しているテスト日程はこれで最後。
あとは、大会に向けて各種準備を進めていく事になる。
本番でのパフォーマンスを楽しみにしたい。
【取材・文】
編者(ものシンク)
【取材協力】
フォーミュラSAE北海道チーム
(株)いすゞ北海道試験場