
学生フォーミュラ 2026 日本大会 (開催期間:2026年8月2日~2026年8月7日)の会場は、年に一度の晴れ舞台に挑む学生たちの高揚感と緊張感に包まれていた。近年の学生フォーミュラにおいては、タイムや走行性能を追求する「動的審査」が最優先とされ、多くのチームが「いかに速く、カッコいいマシンを動かすか」に焦点を当てて開発を行っている。
しかし、そうした熱狂の喧騒の中で直接お話を聞いた東京工科大学 学生フォーミュラチームのアプローチは、異彩を放っていた。彼らが目指すのは、単なるレーシングカーの速さの追求ではない。事前に製品企画とコンセプトを徹底的に固め、それに基づいたプロダクトデザインから実車を設計・開発するという、企業の製造現場とまったく同じ「ものづくり」の手法である。
今大会では残念ながら走行審査には間に合わなかったものの、次年度に向けたノウハウを吸収すべく、車両を持ち込んで車検に挑んだ。

学芸の垣根を超えたチームと車検現場で得たリアルな課題
会場に展示されたマシンは、細部に至るまで非常に美しい仕上がりで、従来の学生フォーミュラとは一線を画す印象を受けた。
東京工科大学チームは、工学部を中心にしながらもデザイン学部など多角的なバックグラウンドを持つ学生を巻き込み、一つのプロダクトとしてマシン作りを進めている。多くのチームが動的審査を優先し、静的審査(デザインやコスト・プレゼンテーションなど)を後付けやつじつま合わせで処理しがちな現状に対し、同チームは静的審査やデザイン、設計の面で、将来社会に出た際の企業の形に近いアプローチで進めていこうとしている。
こうした取り組みは、欧米の学生フォーミュラ(Formula Student)では当たり前のように実践されている教育プロセスであり、社会で即戦力となる人材育成の本来の姿でもある。しかし、その実践には現場ならではの壁も立ちはだかる。今大会に参加し、厳しい「車検」を実際に受ける中で、チームは実効的な課題を突きつけられることとなった。

車検を受ける中で見えてきた課題
まず痛感したという点が、車検やレギュレーションへの理解不足。設計を主導する中心メンバーが少なかったため、車検員と規程を踏まえての対話、交渉を対等に行う組み立てで苦戦を強いられた。
さらに、加工や製造といった作業に慣れていないメンバーも多く、限られた人数で設計・製作を一貫して進めることの大変さを改めて感じていた。
机上の計算だけでは決して得られない経験を得た同チーム。
まず、9月に予定されている試走会に向けて完全に走れる状態(完成状態)へと引き上げ、実車走行という成果によってチームのモチベーションや士気を高めていこうと考えている。これによりチームの意識を固め、新入生の獲得や組織基盤の強化へと繋げていきたいようだ。
そして次年度に向けては、「他とは違う点で攻めてきたな、という強烈な印象を審判員や周囲に遺したい。昨今の『速くなりすぎた』『終着点が見えてきた』ような学生フォーミュラではなく、企業的な考え方を踏まえ、より市場や社会に売り出せる『商品』としてのマシンをデザインしていきたい。」と、意気込みを語ってくれた。

考察:“ものづくり”人材育成の本来の在り方とは?
エンジニアリングの本質とは、単にパーツを組み立ててスペックや速度のみを競うことではない。ユーザーのニーズを汲み取り、製品コンセプトを定義し、デザイン・コスト・レギュレーションの厳格な制約の中で最適解へと落とし込んでいく総合的なプロセスのことである。
大会の喧騒と車検の緊張感の中で語られた東京工科大学チームの挑戦は、まさにこの「ものづくり本来の姿」を学生フォーミュラで体現しようとするものである。モータースポーツとしての過熱が進む学生フォーミュラ界において、彼らの果敢な挑戦は、今後のものづくり教育と大会の在り方に大きな一石を投じることになるだろう。
【取材・文・撮影】
ものシンク編集部
現役ITエンジニアの視点から、日本の「ものづくり」と「インフラ」の最前線を独自の切り口で紐解くWebメディア。
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東京工科大学 Project EV.
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