
2025年大会において、オートクロスでICV(内燃機関)クラスのトップタイムを記録し、一躍ダークホースに躍り出た北海道大学学生フォーミュラチーム。北海道という遠隔地のハンデを見事に克服し、ついに全国の強豪チームへと仲間入りを果たすまでになった。
そして迎えた2026年大会。彼らが掲げる目標は、ずばり「動的審査の優勝」である。本稿では、その熱き戦いの模様をレポートする。

マシンの概要と設計思想
今年度、北海道大学チームが持ち込んだ新型マシン「FH-20」は、データと実測に基づき徹底的な「軽量化」と「低重心化」を追求した意欲作だ。
Honda CBR600RRエンジンを搭載し、今期は新たにLSD(リミテッド・スリップ・デフ)を採用。それに合わせたデフマウントの新規設計やオイルパンの極薄化により、限界性能と操縦安定性を高次元で両立させている。そしてコックピット周りや足回りなど各部に及ぶ軽量化により、ピーキーさを排除し「誰が乗っても限界を引き出せる」マシンに仕上げている。
なお、空力パーツに関してはスケジュールの都合上、実績のある昨年度のエアロパーツをベースに細部をモデファイ(アジャスト)して実戦投入し、車体全体のバランスを最適化するアプローチをとってきた。

大会成績
静的審査
- デザイン:4位
- プレゼンテーション:16位
- コスト:29位
動的審査
- アクセラレーション:3位
- スキッドパッド:3位
- オートクロス:2位
- エンデュランス:15位
- 効率:9位
ベスト3面図賞:1位
総合順位:7位
動的審査順位:8位

静的審査の状況
大会を通じたリーダーの総括によると、静的審査の結果は「ある程度予想通り」の着地となった。
特筆すべきは「デザイン審査 4位」という大躍進。昨年度の好成績によって設計の方向性が正しかったことが証明されたため、メンバーのモチベーションが大きく向上。さらに今年度からは「V字モデル」や「PDCAサイクル」といった開発プロセスを部員が強く意識して設計サイクルを回したことが、この見事な結果に直結している。
プレゼンテーション審査についても、昨年から入念に準備を進めていた効果が表れており、確かな手応えを感じていた。
一方でコスト審査に関しては、車両の製作にリソースを集中させた影響で十分な準備ができず、苦戦を強いられる結果となった。これもチームとしては想定内の「痛手」として、冷静に受け止めている。
冷や冷やのブレーキテスト通過
総合優勝を狙う強豪チームが順調に車検を通過していく中、北海道大学チームはブレーキテストで思わぬ苦戦を強いられることとなった。原因は、チームが採用しているウィルウッド製ブレーキのトラブルで、それによるブレーキフィーリングの悪化により、ドライバーが意図した踏力バランスが得られない状態に陥ってしまった。
実はこのブレーキ、昨年から継続使用しているパーツで、昨年も若干のトラブルはあったものの致命傷には至らず、今年度も大会直前までは全く問題なく機能していたという。運悪くこの大舞台で不具合が表面化した形だが、チームの「パーツマイレージ管理」で課題を浮き彫りにする出来事となった。
結局、一発合格とならずに翌日へ持ち越し。ピットではブレーキフルードの徹底的なエア抜きと、ブレーキ部品の交換、再調整が行われた。
そして翌日の再挑戦では、ドライバーの慎重なブレーキ操作も功を奏し、なんとか合格基準をクリア。マシンを降りたドライバーから「緊張しました」という声が漏れるほど、チームにとってはなんとも冷や冷やな車検通過劇となった。

動的審査の状況
迎えた動的審査。事前のテストデータと現場の環境をすり合わせながらの堅実な戦いが繰り広げられた。
まずアクセラレーションでは、目標としていた「4秒切り」には惜しくも届かず。しかし、事前のテスト走行で予想されていた通りの性能をしっかりと発揮でき、チームとしては十分な結果を出せたと満足感を示していた。
続いてスキッドパッド。事前テストでは非常に良いタイムが出ていたが、本番特有の想定外の仕様や路面状況の違いに対応しきれず、チームが望んでいたベストな結果には至らなかった。しかし、昨年からの性能向上はデータとしても確実に表れているという。
そして期待の高まるオートクロスでは、今年もチームの戦略と適応力が光った。1本目を走るドライバーがマシンのセッティング出しに徹し、そのフィードバックを元に経験豊富な2人目のドライバーへと繋ぐという、昨年同様の作戦を見事に遂行した。
劇的だったのは最後の出走時。外気温と路面コンディションが、ホームである北海道でのテスト走行時に似た状況となったため、すかさずその環境に合わせたセッティングへと変更。これがピタリと的中し、見事ベストタイムを記録した。残念ながらトップは同志社大学に明け渡したものの、全種目を通して手堅く成績を残しつつ、勝負どころでの強さを見せつけた瞬間となった。

波乱のエンデュランス(耐久審査)と不屈の完走
大会の最終種目であり、マシンの総合力と信頼性が問われるエンデュランス(耐久審査)。しかし、今年のエンデュランスは前代未聞の波乱の幕開けとなった。
大会期間中に他チームで2件の車両火災が発生した影響により、スケジュールが大幅に短縮。急遽「2名のドライバーが交代で5周ずつアタックする」という異例のスプリント寄りのフォーマットへと変更されたのだ。
試練はそれだけではない。出走直前、全チームに対してエンジン周りの厳格な「追加車検」が突如として課せられたのである。当初、この車検には理不尽とも言える厳しい基準が盛り込まれており、そのままでは北海道大学を含むトップチームの多くが出走権を失う可能性が出てきた。これに対し、複数のチーム代表が主催者側へ猛抗議を行うという緊迫した一幕もあったが、北海道大学チームはなんとか追加車検をクリア。執念で出走へと漕ぎ着けた。
コースイン後、1stドライバーは研ぎ澄まされたセッティングの恩恵を受け、好調なペースで周回を重ねてピットへ帰還。勝負の行方は2ndドライバーへと託された。
しかしピットアウト直後、マシンに痛恨のトラブルが襲いかかる。強烈なダウンフォースを生み出していたはずのリアウイングが、なんとマウント部の突如の破断により脱落。そのためオレンジポール旗が出されてしまい、無念の緊急ピットインとなった。幸い、確認のうえ再びコースインできたものの、リアのダウンフォースを失ったマシンはトラクションが抜けやすく、ドライバーは、極めて不安定な状態でのドライブを強いられる事に。
途中、スピンを喫する等ヒヤリとする場面があったものの、ドライバーは持ち前のテクニックを武器に、ピーキーになったマシンを力技でねじ伏せ、ゴールまで無事にマシンを送り届けてくれた。
万全の状態での「動的審査優勝」には一歩届かなかったかもしれない。しかし、予期せぬスケジュールの変更、理不尽な追加車検、そして台風下での致命的とも言える走行中のパーツ脱落。これらすべての逆境を跳ね除けて掴み取ったこの「完走」は、北海道大学チームの底力と不屈の精神を証明する、なによりも劇的なフィナーレとなった。
【取材・文・撮影】
ものシンク編集部
現役ITエンジニアの視点から、日本の「ものづくり」と「インフラ」の最前線を独自の切り口で紐解くWebメディア。
【取材協力・関連リンク】
フォーミュラSAE北海道チーム
社団法人自動車技術会