
北海道大学 フォーミュラチームの学生フォーミュラ2025大会は、ICV(ガソリンエンジン)クラスの参加58チーム中 総合7位と、過去最高の成績で幕を閉じた。
2007年の初参戦から18年目の快挙。
しかもオートクロスはトップタイムで、エンデュランスのファイナル6に進出と記録づくめとなった。


【 北海道大学 のこれまで 】
過去の成績を見ると、コロナ過明けの2022年は参加63チーム中 総合32位、2023年が参加69チーム中 総合21位、そして2024年が参加75チーム中 総合17位と上昇傾向。
知っての通り北海道は国内参加のチーム中、一番遠隔地のため、本州勢と比較して様々なハンデを抱えている。
本州勢が行っている合同試走会(合同テスト)や模擬車検、各種交流会への参加が厳しい事。
道内からの現地参加は実質同チームのみなため、他チームとのリアルな比較がし難い事。
試走会や各種イベントも自分達だけで企画、運営する必要がある事。
大会会場に近い気温や環境、本番を想定したコースレイアウトでの試走が満足に行えない事。
思いつくだけでもこれだけの事がある。
こうした背景の元で活動しているにも関わらず、今や本州勢を喰うまでに成長した同チーム。
不思議と誰もがノーマークな中、迎えた本大会では会場の度肝を抜いてきた。

【 北海道大学 のマシン FH-19 】
昨年型から全長とホイールベースが大きくショート化され、反面、全幅は若干ワイドに(トレッドは維持)なっている。
これまでアンダーステア傾向と冷却性能、重たい重量が問題としてあがっていたため、今期の開発ではそれらを解消するところから始まった。

まずアンダーステア対策として、フロントのエボサス化と前後タイヤサイズを16.0×7.5-10に統一。
昨年はフロントのみ16.0×6.0-10となっていたため、これで幅広タイヤが使えるようになった。
冷却系では当初、オイルクーラーの設置やセンサー取り付けによる温度管理などを検討したが評価するまでに至らず、今回は排気系への断熱塗装を行い、エンジンルームの温度が上がらないよう工夫された。
テストでは問題ない事が確認できたため、あとは本番で臨機応変に対応すればよいと腹を決めたそうだ。
そして重量だが、249kg近い昨年型から23kgのダイエットを行った結果、220kg台へ絞られた。
これは強豪チームと肩を並べる数値で、達成できた背景には部品一つ一つの見直しと、それを意識したメンバー一人一人の頑張りがあったという。
合わせて、前後重量バランスは前よりに変更されている。
エンジンは昨年と同じくホンダのPC40Eだが、パワーとトルクは3~4割ほどアップしており、パワーバンドは下に広げられている。
これによるパワーウエイトレシオは約3.4。
同じくスペースフレームを採用する強豪チームに迫る数値を叩き出してきた。


他では、昨年導入のエアシフターは継続して採用。
加えて新たに、電子制御の可変吸気システムを導入してきた。
システムのオンオフでギア比変更に近い効果も出せるようで、急なセッティング変更にも強味を見せている。
今年はシェイクダウンを早めに済ませたため、テスト走行のマイレージを大幅に増やす事に成功。
試走会ではフロントウイングのトラブル対応に加え、可変吸気も初期の頃はパワーバンドが合わない等 使い方の模索が続けられたが、最後の試走セッションでそれらも解決。
十分なデータが得られたようだ。
では、大会結果の詳細を見ていこう。


【 静的審査 】(※カッコは2024年の順位)
- デザイン:5位 (19位)
- コスト:33位(34位)
- プレゼンテーション:20位(54位)
かなり力を入れてきたようで、平均順位を大幅に向上させてきた。
この背景には「静的審査を捨てて動的審査だけを頑張るんだね」という、ある大人の一言が影響していた。
その事に悔しさを覚えたチームは、絶対に見返してやろうと奮起して取り組んできた。
コストはまだ課題解決には至らないものの、プレゼンテーションでは昨年大きく落とした順位を例年なみに回復。
そしてデザインでは、開発過程においてV字プロセスを忠実に辿るよう徹底。
メンバーにもその意識が浸透していたようで、そうした点を審査員に評価されたのでは?と見ている。
チームの成長が感じる今回の結果に、「ホッとしました」と大橋リーダーはとても満足していた。


【 動的審査 】(※カッコは2024年の順位)
- アクセラレーション:4位 (11位)
- スキッドパッド:12位(26位)
- オートクロス:1位(16位)
- エンデュランス:14位(12位)※初のファイナル6からの出走
- 効率:19位(20位)
会場を騒然とさせたオートクロスはもちろん、アクセラレーションの成績も光る。
スキッドパッドは少し不満が残るものの、こちらも順位だけでなくタイムも昨年より向上している。
チームの見解では、マシンは狙った性能以上のパフォーマンスで、そこへドライバーの頑張りが加わった事が今回の結果に繋がったものと見ている。
今でも、オートクロス1位タイムが出た直後のどよめきが思い起こされる。
伺ったところ戦略的な面もあったようで、まず1回目をセカンドドライバーに走ってもらいセッティング等を確認。
その後、再調整してスキッドパッドで確かめたところ良い感触が得られたため、その状態でファーストドライバーに2回目を託したそうだ。
その期待とプレッシャーにどう応えたか?
残念ながらライブ映像が追えておらず、その走りは公式のアーカイブに残されていない。
一部のみ当メディアで撮影出来たので、それを投稿したXのポストを紹介する。

そしてエンデュランス。
前日のプラクティスにてエンジニアにリクエストするドライバーの姿が見られるなど、積極的にセッティングを煮詰めていた。
リーダー、ドライバー、メンバーからも仕上がりに自信を持ったコメントが出てきたが、本番当日は無情にもウェットコンディション。
直前では雨は弱くなったもののウェットタイヤで走らざるえず、その時点でエンデュランストップの目は消滅。
ドライセットにレインタイヤという妥協セッティングで走らざる得なかったが、路面がダンプ、ドライへと変化していく中、タイヤの発熱に悩まされながらもドライバーは奮闘。
最後まで安定したラップを刻んできた。
もしドライタイヤで走れていたらどうなっていたか?
参考までに、今年は昨年よりタイムアップしている事をお伝えしておく。

【 総合結果 】(※カッコは2024年の順位)
7位(17位)
今年掲げた目標である総合のシングル順位入り、ファイナル6入りを達成。
もちろんチーム創設以来、初の快挙。
無事ゴールした後、チームメンバー全員が大歓声で出迎えていた。

ゴール直後、プロジェクトリーダーの大橋さんに喜びの声を伺ってみた。
“一年間頑張ってきて良かったなと、今はホッとしています。今回、チームとしては予想以上の結果が出てしまいましたが、実際はまだまだ課題が多いと認識しています。現状に満足せず、来年はもっと良いマシンが作れるよう、また頑張ります!”

もはや学生フォーミュラにおいて、その他大勢から飛び出した格好の北海道大学。
有識者や大手メディアにその存在を刻み付けたし、今後、総合優勝を狙うチームからはマークされる事は間違いない。
北海道大学が真に強豪チーム入りを果たせるかは、こうした中で戦う来季にかかっている。
そういえば気になった事がある。
一つは各アワードの受賞傾向で、北海道大学でもオートクロスや日本自動車工業会で選出されたが、毎年 優勝候補に数えられるチームは、他のアワードでも多く選出される傾向にある。
ものづくり企業が審査するアワードもあるため、今後はそうした方面にも認められる ものづくり も検討頂きたい。
もう一つがデザインファイナル。
海外勢の、まるで企業プレゼンのような発表と資料のクオリティに、日本の学生達が圧倒される場面も見られた。
総合優勝を狙うなら、これらに対抗した取り組みも必要だろう。
【取材・文】
編者(ものシンク)
【取材協力】
公益社団法人 自動車技術会
フォーミュラSAE北海道チーム