
人とくるまのテクノロジー展 2026 NAGOYA 取材記事。
物流業界の脱炭素化に向けて電動大型トラックやバスへの期待が高まる中、実用化の大きな壁となっているのがシビアなバッテリーの温度管理だ。この課題に対し、デンソーが開発した国内初の「バッテリー温調モジュール」が確かな最適解を示している。
単なる「強力な冷却装置」という枠に収まらない、緻密なシステムデザインと、商用車から乗用車へと見据える同社の戦略の要点に迫る。
「冷やす」から「最適な温度に保つ」へのパラダイムシフト
EVや燃料電池車(FCV)において、バッテリーの熱対策はシステムの寿命と性能を左右する最重要課題だ。デンソーのモジュールが優れているのは、ただ力任せに冷却するのではなく、「常に最適な温度帯に保つ」ことに主眼を置いている点にある。
走行時に高出力で使用される大型トラックのバッテリーは膨大な熱を発するが、過度な冷却もまた性能低下を招く。本製品は夏場の強力な冷却機能はもちろんのこと、冬場の加温機能も備えている。過酷な運行条件下でもバッテリーへの負荷を最小限に抑え、寿命を延ばしつつ、常に安定した走行性能を引き出すよう精密な温度制御が行われている。
春・秋は「外気」の力を賢く使う。徹底した省エネ制御
長距離を走る商用車だからこそ、温調システム自身が消費するエネルギーの削減も至上命題となる。この課題に対し、本モジュールは「ヒートポンプサイクル」と「ラジエーター」という2つの冷却モードを状況に応じてシームレスに切り替える仕組みを採用した。
特筆すべきは、外気が涼しい春や秋の運用だ。この時期はヒートポンプを極力稼働させず、ラジエーターを通じて「外気」を活用した省エネ冷却を行う。そして高負荷時や夏場のみ、デンソー独自の高効率ヒートポンプサイクルへと切り替える。自然の力を賢く取り入れ、不要な電力消費を極限まで削ぎ落とす設計思想が光っている。
独立モジュール化が生む、圧倒的な「車両への最適化」能力
さらに、車両設計の現場目線で高く評価できるのが、その見事なパッケージングだ。本製品は、ヒートポンプやラジエーター、ヒーター、ポンプといったバッテリーの温度制御に必要な機能を、車室内の空調システムから完全に切り離して「独立したモジュール」としている。
これにより、キャビンの空調(ドライバーの快適性)に一切干渉することなく、搭載する車両の骨格やスペースに合わせて、各ユニットの配置や大きさを柔軟に最適化することが可能になった。モジュール化によって実装時のレイアウト自由度を高めたことは、車体側の設計負担を軽減する大きなアドバンテージとなる。

重さと大きさの課題を乗り越え、商用車から乗用車の領域へ
「日野プロフィア Z FCV」への搭載を皮切りに、すでに実用化のフェーズに入っている本モジュール。デンソーは今後の展開として、まずはトラックやバスなどの「商用車向け」に絞って開発と普及を推進していく構えだ。
その背景には、システムを統合したことによるユニット自体の「重さ」と「大きさ」という、開発上のリアルな課題がある。そのため、搭載スペースや重量増への許容度がある程度担保される大型商用車において、まずは極めてシビアな耐久性と信頼性を磨き、現場での実績と経験を蓄積していく戦略をとっている。
そして、そこで鍛え上げられた技術とノウハウをベースに小型・軽量化のハードルを越え、将来的にはシビアなパッケージングが求められる「乗用車向け」へのアプローチも視野に入れているという。
高い冷却性能、緻密な省エネ制御、そして独立モジュールとしての実装のしやすさを兼ね備えた本製品。まずは商用EVの屋台骨を支える重要なコンポーネントとして市場を牽引し、着実な技術の蓄積を経て、ゆくゆくは乗用車も含めた次世代モビリティ全体の熱マネジメントを担うポテンシャルを秘めている。
【取材・文・撮影】
ものシンク編集部
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